MANADO(INDONESIA) 現地滞在リポートNo.3 MUREX : SERENADE Liveabord編
2003年5月31日(土)
2003/4/27(日)
レンベリゾートからの帰路、熟睡している間にメナドに着いていた。日曜日なので、お店もあまり開いていないようだった。MUREXはメナド市街を挟んでNDCやサンティカとまったく反対側の海岸線にある。途中、ビーチ沿いに出店が沢山並んでいて、海は海水浴をする地元の人たちで賑わっていた。出店はさしずめ海の家、この辺はメナドの江ノ島や湘南といったところか。その海岸沿いの道をしばらく走ると、良く見ていないと見落としてしまいそうな小さな脇道の横にMUREXの看板があり、そこを右折してリゾートの中に入っていく。敷地内は結構植物で鬱蒼としている。古いリゾートだけど、雰囲気は悪くは無い。NDCやサンティカのマングローブに覆われた海岸線と違って、黒砂だけどビーチがあるし、ビーチ沿いにタイのサラ(?)みたいな小屋もあって、そこでくつろぎながら海に沈む夕日を眺める事もできる。沖にブナケン島とメナド・トゥア島が見える。ここからだと、普通のダイビングボートで1時間以上、スピードボートでも45分くらいかかるそうだ。
ビーチには、先日レンベで一緒に潜ったドイツ人がいたので、挨拶をした。彼の名前はアンドレアスという。その後ダニーと、それに今年のダイビングフェスティバル以来の再開となった奥さんのアンジェリークに挨拶して、クルーズで僕と細田さんのガイドをつとめてくれるバスラを紹介してもらった。巨漢の彼はアンボンの出身だという。もし、今日か明日、潜る気があるならMUREXのハウスリーフに潜ってみないかと言われたので、明日は面倒だからと今日潜ることにした。部屋に荷物を入れ、しばらくしてダイビングの準備をしてビーチからエントリーした。水底は緩やかな砂地のスロープで、サンゴの根や魚礁などが点在している。砂の色は伊豆の海に似ている。透明度の悪いレンベで潜っていたせいか思いのほかクリアで明るい印象を受けた。実際、透明度は20m以上はありそうだった。最大水深14m程度で、ゆっくりと浅場を移動しながら生物を探した。見つけたものは、オイランヨウジ、オルネート(ハーレクイン)ゴーストパイプフィッシュ、ブラウンのリーフフィッシュ(ハダカハオコゼ)、ピンクっぽい色のジョーフィッシュ、コショウダイ系の幼魚数種、スパインチークアネモネフィッシュなど。見れる魚たちが普通っぽくて、やっと腐界の森から抜けだせたって感じだ。レンベも本当に生物が変わっていて面白い海だけど、やっぱり明るい海が好きな僕としては、いつもいつもあの海に潜るのはちょっと辛い。明るくて透明度が良いというそれだけでリラックスできる。
エキジットしてから、バスラに、Green Oilの事を話した。「クラゲに刺された時、NDCのガイドに効くと言われてもらった薬なんだ。もう無くなったから買いたいのだけど、どこかで手に入るかな」と聞くと、買ってきてくれるというので、見本の瓶と40000ルピアを渡して、後で受取った。同じサイズの瓶を5個買ってきてくれた。値段は売ってる場所によって多少違うらしく、何件か回って5000~6500ルピアくらいだったので、一番安い5000ルピアの所で買ってきてくれた。乗り合いタクシーに5回乗って、1回1000ルピアで合わせて30000ルピア。おつりの10000ルピアは今日のガイドと、買い物をしてくれたチップとして彼にあげた。
海に沈む夕日を撮影して、しばらく部屋で休んでから夕食を食べにレセプションにでかけた。僕が一番早かったのだが、少しづつ人が集まりはじめた。スェーデン人夫婦とドイツ人夫婦、カナダのバンクーバーから来た男性ダリルとアンドレアス、それに僕を含めた7人が今MUREXにいる全てのゲストだ。テーブルはいくつかあるのに、全員が中央にある丸テーブルに座った。ちょうど椅子も7個あった。彼ら自身、英語があまり話せないのもあるかもしれないし、僕が英語しゃべれないと思っていたのかもしれないが、ほとんど会話をしない。いや、2組みの中年夫婦は基本的には寡黙が好きっぽい。なのに同じテーブルに着くものだから、僕は余計何か話さなければとプレッシャーを感じてしまった。食事の間中、しゃべっていたのはアンドレアスと僕だけで、残りの人は僕らの話しを聞いているか、ほとんど黙って食事をしていた。陽気過ぎるのもなんだけど、静か過ぎるのも陰気くさくて嫌だったので、彼がいてくれて本当にほっとした。
アンドレアスは先程マッサージをしてもらったと聞いたので、いくらか尋ねたら、1セット、1時間以上してもらって40000ルピアだという。安いので、僕も頼むことにした。彼とカナダ人男性は、ここのガイドのケネディーに案内されて、これからメナドの町に繰り出すから一緒に行かないかと言われたが、マッサージを頼んだし、眠いからことわった。
2003/4/28(月)
早朝、朝5時前、久しぶりに遠くから聞こえるコーランを歌う声で目が覚めた。ここはビーチが近いので波の音が聞こえる。NDCではコーランと鶏の鳴き声、それに子供たちのはしゃぐ声、サンティカでは小鳥のさえずり、レンベリゾートでは虫の鳴き声、そしてMUREXではコーランと波の音、耳に残る周囲の印象が全て違っていた。
ゲストがセレナーデに乗船する前に、一度ベッドメイクされている状態を視察させてもらった。以前はドックに入っていたので、あまりぱっとしない印象だったが、綺麗になった所を見ると、部屋も広いし、なかなか良い感じだった。部屋割りや、船やコースに関するブリーフィングを相談して、ゲストの到着を待つことになった。今日のシルクエアで、日本人ゲストの他にスペイン人のグループもやってくるという。最初に到着したのは、一人ガルーダで到着したダイビングワールドの細田さん。その次ぎに数日間先に来て、サンティカに滞在していた女性。そこまでは順調だったのだが、何とシルクエアの到着が3時間遅れることになった。多少ブリーフィングに時間をかける余裕があったのが、到着してすみやかに必要書類の記入をしてもらい、手短にブリーフィングを済ませて、即効で乗船し、出発させなければならなくなったので、僕が日本人ゲストの方のブリーフィング全てをまかされる事になってしまった。できれば英語できる人がいてくれれば良いのだけど、と思ったのだが、到着したゲストの中にはしゃべれる人はいなかったので、結局僕が全て対応することになった。乗船前、乗船後のブリーフィング、クルーの紹介をすみやかに済ませて、船は出港した。時間にして午後7時30分頃。移動と同時に、ディナーを食べた。新しいコックということで、ダニーは味の心配をしていたが、なかなか美味しかった。
明日の予定をバスラと打ち合わせした後に、ゲスト全員(細田さんは疲れて先に寝てしまった)で、自己紹介などして、10時30分頃床に着いた。明日、最初に向かうのはシアウ島の西に位置するマカレヒ島。ここで、2ダイブした後、シアウ島に移動して1ダイブ、ナイト1ダイブして一度停泊する予定だ。今日はこれまで。
2003/4/29(火)
早朝、キャビンにある窓の外が明るくなって目が覚めた。外に出てみると、前方に最初の目的地マカレヒ島がみえた。ボートの東側の水平線には、シアウ島のシルエットが浮かび上がっていた。活火山の山頂、噴火口からは、真上に向かって、葉巻きを燻らせたような穏やかな噴煙が立ち上って、途中から途切れる事なく南に緩やかに流れていた。とても美しい風景だった。久しぶりに、朝のトワイライトタイムのベストショットが撮れた。ちなみに日の出は5時30分頃だったろうか。7時にはマカレヒ島(Makalehi Is)に到着した。昨晩のブリーフィングでは、朝8時30分にファーストダイブの予定だったが、到着が早かったので、時間を切り上げてエントリーをした。1本目のポイントはバトゥ・ティンブル(Batu Timbul)。インドネシア語でフローティングロックという意味だ。最初はチェックダイブも兼ねて、スロープからエントリーし、ドロップオフのウォールダイブを流していく。見れた魚はバッファローフィッシュの群れ、カスミチョウチョウウオや、フィリピンスズメダイ、オヤビッチャなどの群れ、イソマグロ、ツムブトリなど。透明度は30m以上はあったと思う。久しぶりに透明度の高いブルーウォーターで潜れて気持ちよかった。
2本目はタンジュン・マカレヒ(Tanjun Makalehi)。こちらもマカレヒ島のポイントだ。バトゥ・ディンプルと同じように、島周辺のドロップオフをドリフトする。出港が早ければ、1本目からシアウ島周辺で潜れたのだが、飛行機の遅延で出港が遅れたために、シアウよりも西に位置するこの島で2ダイブしてから、船を移動させながら昼食を食べ、シアウへと移動した。
移動してからの3本目はエディーポイント(Eddy Point)。ここもドロップオフをゆっくりとドリフトしながら潜る。狭い範囲を移動するので、マクロ系生物を探してみた。スポンジの中ではピンクスクワットロブスターを見つけた。ドロップオフのトップのコーラルの上にはアンティアス(ハナダイ)が群れていて、カラフルな印象だ。途中で、カレントが逆に変わったので、向きを替えて移動。結局エントリーしたポイントまで戻ってエキジットした。午前中、全容を見せていたシアウ島には、午後から厚い雲に覆われて、山頂は少しづつ見えなくなっていった。海岸線から、急斜面を雲の上にまで突き抜けるように密生するヤシのジャングルはさながらジュラシックパーック。どこからか恐竜たちの雄叫びが聞こえてきこえてきそうだ。
そこから停泊先まで移動してトワイライトダイブで潜ったのが、タンジュン・レヒ(Tanjun Lehi)。セレナーデが停泊している目の前の浅いポイントだ。僕や細田さんは、ダイビングをスキップして、ガイドのオポにつき合ってもらって、海水温泉の撮影も兼ねて島に上陸した。最初は村の近くにある、岩で囲った温泉に入った。水温も丁度良く、いい気分だが、あっという間に子供たちが集まってきた。一緒に入って写真を撮ろうとガイドのオポに言ってもらうと、嬉しそうに子供たちが温泉に入ってきた。しかし、細田さんがカメラを向けると妙に神妙な顔になってしまう。なんとか笑わせようと、オポが大きなくしゃみをしてみたり、僕がデジカメで撮影した写真を見せてあげたりしながら撮影した。その後、ボートで岩で囲っていない温泉が出ている入り江に移動してみた。海岸近くの岩場から吹き出すお湯の温度はかなり高くて、近付けないくらい熱い。そのため、周囲の海水温度が高くなっていて、丁度良い水温の場所を探して浸かるのだが、これがまた気持ち良い。周囲は鬱蒼としたジャングルに囲まれていて、しかも小さな入り江の入り口は西に面していて、海に沈み行く夕日を眺めながらのんびりと温泉に浸かる事ができるのだ。海水とはいえ、なんだか身体がつるつるになったかのような気持ちよさ。でも、緩やかな潮の満ち引きで水温が上がったり下がったりするので、良い場所を見つけるのに多少苦労するかも。
早朝3時に海底火山ポイントに向けて移動を開始するので、皆はビールを飲んで盛り上がっていたようだが、僕と細田さんは、早々に眠ってしまった。
2003/4/30(水)
早朝3時、シアウ島からアンダーウォーターボルケーノに向かって移動を開始した。今日も朝5時頃起きて、朝日を撮影する。シアウから、海底火山のあるマハンゲタン島までの間には、サンギエルハン島(Sanggeluhang Is)、ニトゥ島(Nitu Is)、パラ島(Para Is)などの島々が、日の出前の赤く染まった空の下でシルエットになって、東の水平線状に点々と連なっている。ボートの後方を見ると、雲一つ無い、シアウ島の活火山の雄姿が浮かび上がる。標高800m、海から一気に山頂へとそびえたつ姿は、このサンギヘ諸島の島々の中でももっとも印象的だ。今回、2日間に渡ってこの島が見える場所にいたのだが、山頂まではっきり姿が見えたのは朝だけで、午後になるとどこからか湧き出た雲に覆われて、霞の上に姿を隠してしまった。
マハンゲタン島に到着したのは、朝6時30分頃。べた凪の海の上では、地元の漁師たちの船が集まって漁をしていた。その下に火山があるとバスラが教えてくれた。クルーの一人が、ディンギーに乗って島に向かった。海底火山周辺は、多くの魚達が集まるかっこうの漁場になっていて、漁師たちは、魚が逃げてしまうといって、ダイバーが潜るのを嫌う。そのため、島の長に約US$ 60を支払って、ダイビングの許可をもらうのだ。「そうしないと、潜っているダイバーの頭の上から石が落される」とバスラが説明してくれた。どこに行っても、漁師とダイバーの間のトラブルはあるものだ。お金を支払ったからすぐに潜って良いと言うわけでは無く、あくまで漁が完全に終了してからでないと潜れない。
最後の漁船が引き上げた7時過ぎブリーフィングを行って、いよいよ今回のクルーズの最北端の地でのダイビングを行う事になった。1本目は、マハンゲタン島近海に沈むアンダーウォーターボルケーノ(Under Water Volcano)北回り。まず、ゾディアックに乗ってエントリーポイントまで移動し、海中からバブルが出ている場所とは反対側の端からエントリーして、噴火口の北辺を半周する感じで、バブル吹き出し地点まで移動する。エントリーするなり、真っ青なブルーウォーターが広がった。透明度の高さは、今回のクルーズ随一だったろう。火山の傾斜には、無数のカスミチョウチョウウオが乱舞している。まるで雪でも降っているかのようだ。海底に目をやると、巨大なロウニアジが2匹、こちらに向かってきた。距離があるので、60マクロで撮影していると、その下にギンガメアジの群れが北に向かって移動しているのが目に入った。追いつけるかどうかわからなかったが、深度を下げて、しばらく追跡してみた。最初はどんどん深く潜ってしまうかと思われたが、途中から海面に向かって浮上を始めたので、「もしかしたら行けるかもしれない」と思い、さらに接近すると、先頭のアジたちがどちらに行こうか躊躇して右往左往しはじめた。おそらく潮の変わり目に入ったのだろう。そのまま、こちらにUターンするように戻ってきて、僕の目の前に迫って来た。あとはもう、撮影しまくるだけだ。僕と一緒に追いかけてきた細田さんも一緒になってしばらくギンガメにまかれていた。水深にして約30mちょっとまで落ちた頃には、透明度が悪くなってきていたので、撮影を切り上げて浮上を始めた。
エアの心配もあったので、しばらく浅場を移動していた。カメラを3台持ってきた細田さんはガイドのバスラと一緒に撮影を続けていたが、僕はワイドレンズ1台、マクロ1台だけだったので、あとはバブルを撮影するまであまり無駄撃ちはしないようにしていた。しかし、バスラは細田さんのフォローをしているので、僕はどこがメインのポイントなのかが分からず、ちょこっとバブルが出ていると「え、これがそうなのかな~」と思い2~3カットシャッターを切って、バスラが来るのを待ってから確認すると、「もっと向こうだ」というような合図をする。またしばらく行くと同じようにコケのようなアルジ-が密生して、バブルが出ている場所に来たので「う~ん、イマイチだな」と思いつつまた数カット撮影していると、バスラが「そこでも無くてもっともっと先」というジェスチャーをする。結局そんな事を数回繰り替えして辿り着いた場所は、本当に海底火山の山頂のあちこちから、ぼこぼこと激しくバブルが吹き出していた。触ってみると、熱くは無いけど、多少暖かい感じがした。ここまで来ると、周囲の透明度は極端に落ち、前面をアルジーが覆い尽くしている。「なるほど、これは絵になるな」と思ったのだが、すでにフィルムがほとんど底を尽きていて、まともに撮影はできなかった。
2本目、アンダーウォーターボルケーノ(Under Water Volcano)南回り。2本目は海中からバブルの出ているポイントからエントリーして、そこから1本目に入ったポイント方面へ、南側回りで約半周するルートを取る。1本目であまり撮影できなかったので、皆が早々に移動する中、しばらくはバブルの撮影を行っていた。撮影を終了し、移動をはじめる。最初は透明度も悪く、海底は火山灰のような泥地が広がっていたが、南西端のコーナーを曲がると、突然透明度が良くなり、ブルーウォーターが目の前に広がった。海底も巨大なスポンジやサンゴなど、カラフルなイメージに変わり、浮遊感を満喫できた。結局1本目のエントリーポイントを通過して、2本目のエントリーポイントにかなり近い場所でエキジットした。海底火山の火口周辺部をまるまる1周以上したことになる。印象の違う何パターンかの異様な景観が広がり、別の惑星を探検しているような気分でダイビングが楽しめるポイントだった。
ボートは、ここから折り返して南下を始める。1時間30分かけてバウンデケ島(Bawondeke Is)に移動して、ダイビング。移動途中でハシナガイルカに遭遇。島が小さいので、1ダイブで1周するダイビング。テーブルコーラルなどのサンゴが美しく、砂地には、ヤノダテハゼ、レッドバンデッドシュリンプゴビー、巨大なジョーフィッシュなど。白と黒のラインの幼魚があちこちで群れを作っていたのだが、良く観察していると、ジョーの巣穴に集団で逃げ込んだりしている。正体ははっきりしないが、もしかしたらジョーの子供たちなのかもしれない。
4本目はシアウ島に移動して、昨日と同じタンジュン・レヒでナイトダイブをすることに。移動時間は約2時間30分。今日も午前中は見事な雄姿を見せていたシアウ島の火山(約800m)も、午後からは中腹当たりから雲に覆われて見えなくなっていた。移動の途中で、海面に浮かぶ数個の背びれを発見した。最初クジラかと思ったが、良く見ると1頭、やけに背びれが長い個体がいた。「もしかしたらオルカかも」。そう思ったのは、前々から、ブナケンや、このサンギヘ周辺でのオルカ目撃情報を多くのガイドたちから聞いていたからだ。実際、接近してみると、顔の部分が白い。間違い無くオルカのポッド(集団)だった。自分も野生のオルカを見るのは初めての事だった。しかし、いくら目撃情報が多いとは言っても、長年このメナドでガイドしているならともかく、1度の滞在で見れるとはラッキーだ。去年のジュゴンといい、今回のオルカといい、僕にとっては、メナドの海は何かしら大物と遭遇させてくれる。魅力的な海だ。しばらくはポッドを追跡してみたが、あまり近寄りたくないようなので、なんとか背ヒレが一斉に飛び出した瞬間を撮影して追跡を終了した。彼らは、こちらを観察するかのように、一度だけ船の真下を移動した。白い部分だけが、深く暗い海に浮かび上がり、彼らがこちらを覗き込んでいるのがわかった。シアウの島影と、オルカの出現が妙にマッチしていて、僕は一瞬太古の世界にタイムスリップしたような感覚に捕われた。
昨日と同じ停泊ポイントに到着した。僕ら数人はナイトダイビングをスキップして、ホットスプリングに入りに行った。雨が降っていたが、気持ち良かったので、暗くなるまで浸かっていた。
明日はバンカ島周辺で潜るため、ボートは夜8時に移動を始める。移動時間は約10時間。
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2003/5/1(木)
夜明け前、目が覚めて部屋の外に出ると、少しづつ白む海はべた凪だが、空は雲に覆われていた。イルカの背びれが見えた。良く見ると、あっちにも、こっちにもイルカの背びれが水面に見えかくれしている。何頭かのイルカがバウに付いて泳ぎだした。どうやら小さいサイズのゴンドウイルカのようだが、どの種類だかは正確にはわからない。暗いので、撮影は無理だと思ったが、バウに付いてしばらく泳いだりしてくれたので、ストロボをたいて撮影してみた。6時にはバンカ島に到着したので、しばらく停泊してバトゥ・ゴソに潜る。透明度は以前潜った時よりも悪い。撮影のターゲットは、最後の方にある水面に垂直に突き出たピナクルに絞った。2本目はサハウン。潮の流れが強く透明度も悪い。水深25mにある小さなイソバナにいるピグミーを撮影した。ソフトコーラルもカラフルだったが、流れがきつすぎて、最後まで回れなかった。細田さんは巨大なバッファローフィッシュを撮影できたそうだが、僕とはちょっと距離が離れていたので、僕は見る事はできなかった。他には、テーブルサンゴの下で眠るネムリブカやハナヒゲウツボ、ヨスジフエダイの群れ、アケボノハゼ、ムレハタタテダイの群れなどを撮影した。
2本目の後、サハウン島とバンカ島の間の入り江に入って、シンフォニー、セレナーデ、ミンピが一緒になっているところを撮影。タラサからの日帰りトリップで来ていたフランスマンや、ミンピに乗っていた鍵井君、えりさんに会った。天気も良く、雲の感じも良かったので、結構良い感じの写真が撮れた。
3本目はプリサン島に移動し、バトゥ・マンディ(Batu Mandi)に潜る。水深20mの砂地から立ち上がるショートドロップを潜るポイント。透明度は悪いが、ワイドも決して悪くは無い。でも、この透明度だと、まあ一般的にはマクロかな。ゼブライール、ワニゴチ、ウミウシ、エビ、モンハナジャコ、ハナヒゲウツボなどの生物の充実ぶりに、細田さんは大喜びしていた。僕が「レンベはもっと面白いよ」と言うと、マクロ好きの彼は、増々レンベに行きたい熱が高まったようだった。
4本目はさらにメナド方面に移動して、プリンセスピアでナイトダイブ。僕はダイビングをスキップした。空には、光りの道がかかっていた。
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2003/5/2(金)
いよいよクルーズ最終日。朝3時、ブナケンマリンパークに向かって移動を開始する。朝6時過ぎ、メナド・トゥア島に到着。良く見ると、すでにシンフォニーがダイビングサイトに停泊していた。「向こうはもうダイビングしているよ」とバスラが言った。こちらはまだ2~3人が起きているだけだ。それでも、時間が経てば経つ程流れがきつくなるというので、早々にブリーフィングをして、エントリーすることになった。ポイントはパングリンガン(Pangulingan)。NDCでは、タンジュン・コピと言われているポイントだ。しかし、MUREXでは、このサイト名で呼んでいて、島の反対側にタンジュン・コピという別のポイントがあるそうだ。ここでの狙いはバラクーダの群れだったが、小さな群れがいたにはいたが、流れもきつくて、まともには近付けなかった。流れがきつく、結局張り出したコーナーの反対側には行き着けづ、エントリーポイント辺りに戻って、ハダカハオコゼなどを見つけて撮影したりしていた。
2本目、ブナケンに移動する前にタカジポイントでサンゴを撮影した。ちょっと薄く雲がかかっていたので、イマイチだったが、細田さんには頑張って撮影してもらった。ブナケンではレクアン1&2とフクイポイントに潜った。レクアンではロウニンアジの群れ狙い。フクイポイントではナポレオン、アカククリの群れ、オニテングハギの群れ、ロウニンアジ、カスミアジ、ギンガメアジなどの混成部隊、などを撮影。フクイポイントへの移動中、バンドウイルカに遭遇。また、フクイポイントからMUREXへの帰路、オキゴンドウの群れに遭遇。これで、このクルーズで遭遇した鯨類の種類はオルカ、ハナビレゴンドウ、ハシナガイルカ、バンドウイルカ、オキゴンドウの5種類になった。船の上からとは言っても、これだけの種類を一度に見れるのは、かなりラッキーだろう。MUREXに戻ってダニーにこの話しをしたら、「ラッキーはラッキーだけど、それほど珍しい訳じゃ無い。この海域には他にもマッコウなどもクジラの目撃情報も頻繁に聞くんだよ。だから、まあ可能性は充分にあるね」と言っていた。それだけ大物の可能性を秘めた海だということを今回のクルーズでは充分に実正してくれたのではないだろうか。
今回のメナド滞在で、5つの色を見せてくれたメナドの海。1000m級のドロップオフポイントが点在するブナケンエリアは、美しいハードコーラルのサンゴが楽しめるし、ロウニンアジ、ギンガメアジ、バラクーダ、ツバメウオなどの群れ、ナポレオン、カメなど、定番の群れや大物をほぼ確実に見る事ができる。時には、ダイビング中にジュゴンやオルカに遭遇したり、新種のピグミー、ヒポカンポスポントヒに代表されるように、マクロもそれなりに楽しめる。
その対岸、NDCからサンティカに至るスラウェシ島西岸沿の海岸線に点在するポイントは、ピグミーシーホース、オルネートゴーストパイプフィッシュ、ハーレクインシュリンプ、ボクサークラブ、ブルーリングオクトパス、リーフフィッシュ、各種ウミウシ&エビカニ系などどちらかと言うと日本人にも馴染みがあるマクロ系の宝庫。
バンカ島周辺は伊豆をさらにカラフルにしたようなソフトコーラルの海。ソフトコーラルの上でアンティアス(ハナダイ)系の乱舞する様子は何度見ても惚れ惚れする。また、切り立ったピナクルが点在する険しい地形も面白い。ここも、当然の事ながら、マクロが充実していて、ピンクスクワットロブスター、ピグミーシーホース、アケボノハゼ、リーフフィッシュ、フロッグフィッシュ、ウミウシ各種など、充実したバリエーションが揃っている。ワイドもマクロも楽しめる。
しかし、マクロの極め付けと言ったら、やはりレンベ海峡に勝るものは無いだろう。マクロにあまり興味を向けられないこの僕でさえ、次ぎは何が出るのかとわくわくさせてくれる不思議な海だ。撮影した生物は、アンボンスコーピオンフィッシュ、ベルベットフィッシュ、クカトゥーワスプフィッシュ、クカトゥーフランダーフィッシュ、フロッグフィッシュ、バンガイカーディナルフィッシュ、デコレータークラブ、ブルーリングオクトパス、シーホース、などなど。他にもリザードフィッシュがマンダリンフィッシュを捕食しているシーンやウミウシに共生するエビ、ゼブラフィッシュと小魚が共生するウニを抱える不思議なカニ、ウミウシの複数交接、見た事も無いウミウシ、などなど、変わった生物の宝庫というだけでなく、変わった生態も観察できる。透明度が悪く、毎日潜るのは僕にはちょっと辛いけど、絶対一度は潜る価値のある海だと思う。
そして最後が今回のサンギヘ諸島クルーズで見たメナド外洋での大物の実力。赤道に近くて、これほど多種類の鯨類に遭遇できる海はそうそう見あたらないのでは無いだろうか。それにアンダーウォーターボルケーノなどの変わった水中景観や透明度の高さ。シアウ島の壮観な景色や海岸に湧き出るホットスプリングに浸かってクルーズの疲れを癒したり、水中だけでなく、バリエーションに富んだクルーズが楽しめる。
ダイビングディスティネーションの一つのくくりとして「メナド」をとらえた場合に、これだけバリエーションに富んだ海を満喫できる場所は、なかなか無いのではないだろうか。