魚たちは“触らないで!”と言えません・・・
2012年7月23日(月)
すべての海洋生物は、常に食べるか食べられるか危険の付きまとう厳しい環境で生活しています。危険は水中のいたる所に、違った形で存在しています。海洋生物は、警戒し身を守ることに最善を尽くしていますが、それでも安全の保証は全くありません。そのため、多くの海洋生物は、生き残るための戦術をいくつも生み出し、外見や行動を最大限に工夫して生きているのです。
写真提供:ワカトビゲスト Wayne MacWilliams
サンゴ礁に住む生物達のメカニズムは、他の生物よりもシンプルなものがほとんどです。
それでは、ワカトビに生息する生き物達の『防御戦略』を一緒に見ていきましょう。
写真提供:ワカトビゲスト Claus Meyer
フグは胸びれ、背びれ、尻びれ、尾びれの動きを組み合わせて泳いでいます。これらの動作はとても操作性に優れていますが、ゆったりとした動きなので簡単に捕食のターゲットとなってしまいます。フグの尾びれは、主に舵としての役割を果たしていますが、逃げるためには、なりふりを構わず‘緊急発進’をすることもできます。
フグ科の魚は、この‘緊急発進’と‘優れた視力’により身を守っていますが、これ以外にもいくつかのユニークな防御方法を持っているのです。
写真提供:ワカトビゲスト Steve Miller
ハリセンボンやフグは追いかけ回される状況に陥ると、延び縮みするお腹に水を満たし、自分自身をより大きく見せるという、防御方法を備えています。風船のように身を膨らませる事で捕食者を阻止する事ができ、また実際よりも大きく見せる事で脅威を与える事もできるのです!
また、膨張していない時にはあまり見えませんが、フグは鋭い棘を持っているため、腹ペコな捕食者に対しては‘トゲトゲしく口に合わない魚’ということに気がつかせる事も出来るのです。
このような防御方法を気にも留めない捕食者がハリセンボンを食べようとすると、途中で窒息死したり(仮に膨らむ前に飲み込み始めたとしても)フグの腹の中にある致死性のあるテトロドキシンと言う毒により、最終的には死に至ってしまうことになります。この毒は、主に卵巣と肝臓にあり、筋肉内や腸、皮膚にも微量に存在します。
その他の防御方法として、鋭く伸びた針を使ったり、噛み付いたりして攻撃する手段もあります。フグはこの‘体を膨らませる’‘致命的な毒’‘噛み付く’という3種類の防御対策で、泳ぐのが遅い性質を補っているのです。
ヤドカリは柔らかい体をしているので、非常に傷付きやすいため、常に体を保護できる貝を住み家とし、殻の中に隠れています。実は、これらの安全な場所の獲得競争は厳しいものなのです。
たくさんのヤドカリが、さらに安全で住み心地のよい家を求め、空の貝殻を探しています。ビーチや海岸線に落ちている空の貝殻は彼らの唯一の家です。むやみに集めたりしないでくださいね。
写真提供:ワカトビゲスト Eric Cheng
時には、他のヤドカリと貝殻の奪い合いになることもあります!奪い取る側は、爪で相手のヤドカリをつかむと、全力で貝殻から引き出そうとします。防衛側のヤドカリは、敵の爪を避けるために、可能な限り奥まで引っ込み必死に抵抗します。
侵略側が失敗した場合でも、防衛側のヤドカリが閉じこもっている貝殻を持ち上げたり、しばらく引きずり回ったりするようです!
ソメンヤドカリは、二重の安全対策をとっています。
捨てられた貝殻を住処とするのに加え、イソギンチャクを自分の貝殻に植え付け存在を隠すのに使うのと同時に、小さな刺胞を持つイソギンチャクを自己防衛のために使うのです!
写真提供:ワカトビゲスト John W. Trone
ミミズクガニは、芸術的な変装をマスターしています。自分で見つけた様々なイソギンチャクやサンゴのポリプ、有害なカイメンを背中に乗せて、防御用シールドを栽培しているのです!
どうやらこのカニは、目立っていないという自信が高いようで、ゆっくり近づいたとしても全然動じません。
カイメンは多細胞生物の中で最も古く、5億年以上前に出現した生き物です。ワカトビの海は、非常に高い生物の多様性を持ち、巨体なカイメンやヤギなど壮大な生物の姿を見ることができます。
このカエルアンコウのように、うまく擬態している種も多く、このような生き物を見分けるのは簡単ではありません。
写真提供:ワカトビゲスト Ken Knezick
カイメンは高度に進化を遂げてきた生物であり、他の多細胞動物よりも長く生き残っています。
カイメンや多くのウミトサカは棘を持っており、これらは小さな結晶構造になっており、炭酸カルシウムか二酸化ケイ素で作られています。多くの生き物達の好みに合わなそうですが、カメや一部のチョウチョウウオ、キンチャクダイは好んで食べます。
写真提供:ワカトビゲスト Wayne MacWilliams
サンゴ礁の魚達は、地球上で最も精巧に装飾された動物と言っても間違いないでしょう。しかし、海洋生物にとって、その派手な色や模様は、多くの意味を持っている訳ですが、その大部分が生き延びていくためだと考えられています。
写真提供:ワカトビゲスト Claus Meyer
魚たちの保護色は、周りの動物やサンゴ礁の一部に似せ、またそれらが有害であることを捕食者に‘思い出させる’ものなのです。ある種の幼魚が、成魚とは全く違った模様をしているのは、成魚が間違って同じ種の幼魚を襲わないためだということも分かっています。
例えば、タテジマキンチャクダイは幼魚の時も成魚の時も美しい魚の一つですが、他のキンチャクダイから縄張りを守ることに躍起になる魚です。しかし幼魚特有の模様は、脅威がないと見なされるため、より安全ということになります。
写真提供:ワカトビゲスト Janelle Graves
幼魚と成魚が全く違う色と模様をしているもう一つの例として、イロブダイが挙げられます。
イロブダイの幼魚は、成魚と大きく異なる事で、自らを同種の成魚間で起こる性的な競争の外に身を置けるだけではなく、成魚から保護を受ける事もあるようです。
青のリング模様が美しいヒョウモンダコは、誰もが認識できる体の配色で、自ら猛毒を持っている事を警告しています。
ヒョウモンダコが脅威を感じた時、鮮やかな青色のリング模様が現れます。
写真提供:ワカトビゲスト Doug Richardson
華やかなミノカサゴは、サンゴ礁でも目立つ魚のひとつです。鮮やかなコントラストの配色は、非常に強力な毒棘の存在を捕食者に警告しています。
ミノカサゴはフサカサゴ科に属しています。この科に共通する事実として、棘に多かれ少なかれ毒を含んでいるという事です。しかし、この毒は彼らを攻撃する生き物に対してのみ使われます。
写真提供:ワカトビゲスト Eric Cheng
場合によっては、侵入者から逃げるための最善の方法は、実際よりもより大きく、より脅威だと思わせる事です。色を濃くして、ヒレを広げたりや付属器官を拡大することは、その一つの方法です。
コウイカやヤリイカなどの頭足類は、その色や足の大きさを十分に活用する方法を知っている七変化の達人です。
写真提供:ワカトビゲスト Anne Owen
このカラフルなゾウゲイロウミウシの色合いは、捕食者に食べても美味しくない味だと言う事を現しています。
科学者たちは、サンゴ礁に生息する無脊椎動物から生成される天然の毒素は、将来の医療や薬品として応用できる可能性が高いと考えているそうです。
写真提供:ワカトビゲスト Martin von Ziegler
イソギンチャクやヒドロ虫、クラゲなどの刺胞動物は、刺胞内に毒針を持っていて、えさを捕るときや防御に使われています。サンゴには、多くの微細な刺糸や刺針があります。これらの刺細胞は触手に位置し、糸のような器官で分刺カプセルを製造し、獲物や対象物の体内に放たれます。
この特殊なカプセルは刺胞と呼ばれ、刺激を感じると小さな杭のように刺胞が飛び出し、細線糸で獲物を絡ませ、捕らえている間に無力な獲物に毒素を注入するのです
写真提供:ワカトビゲスト Richard Smith
写真提供:ワカトビゲスト Carlos Villocch
例えば、ウミウシのように色鮮やかな生物たちは、様々な防衛術を持っています。
あるウミウシは、捕食者から逃れるために体の表面の質感や色を周囲の植物に似せるものもいます。またその逆で、とてもカラフルで一目瞭然のウミウシもいます。これは警戒色の例であると考えられており、目を引く鮮やかな発色は有害である事を警告しているのです。
写真提供:ワカトビゲスト Frank Owens
ミズイリショウジョウガイは美しいだけではなく、多くの捕食者にとってとても栄養のある獲物のひとつです。小さな青い目が近くで動きを察知すると同時に貝を閉めるので、頑丈で棘を持った貝に頼って生きています。
接近した写真を撮りたい場合は、ゆっくりとアプローチする必要があります。