コーラル・ジャングル:“木を見て森を見ず”
2013年5月24日(金)
1. “木を見て森を見ず”(意味:物事の一部分や細部に気を取られて、全体を見失う)ということわざがあるように、細部に目をとられ全体像を見逃してしまう時があります。透き通った水に太陽の光が差し込み、サンゴ礁の素晴らしい景色が広がるワカトビでは、簡単に全体像をとらえられることができますが、時にはサンゴやカイメンなどに住む小さな魚や無脊椎動物に焦点を当ててみるのも面白いものです。上手にカムフラージュしている生物もいれば、シンプルにとても小さいためサンゴが密集しているリーフでは簡単に見つからない生物がたくさんいるのです!
森の深さをきちんと把握するためには、立ち止まりじっくりそれぞれの木に目を向けてみると雄大な美しさを感じられるはずです。この考え方に基づき、いつもよりもゆっくり泳ぎ、違った目線で水中の景色を見てみると新しい発見があるかもしれませんよ。
写真提供:ワカトビゲストWalt Stearns
2. サンゴ礁を熱帯のジャングルに例えると、ウミウチワは森にある木といった感じでしょうか? いくつかのウミウチワは、直径4m以上にまで成長しますが、実はウミウチワやヤギの仲間はサンゴ礁を形成するサンゴではありません。石灰質の外骨格を持つ造礁サンゴなどのイシサンゴがサンゴ礁のベースとなっており、成長していく課程でカルシウムなどを生成しているのです!
写真提供:ワカトビゲストWalt Stearns
3. 約500種のウミウチワが世界で確認されていますが、そのほとんどが浅瀬に生息しています。(この場合の浅瀬とは、2mから60mの深さを意味しています。)
ワカトビのエリアには、黄色や緑色のウミカラマツや様々な色のウミウチワそしてアカヤギやムチヤギなどバラエティーに富んだヤギの仲間もたくさん見ることができます。
写真提供:ワカトビゲストMark Snyder
4. ワカトビのダイブサイト“ファンガーデン”で撮影した一枚です。正に名前の通り、生き生きとしたたくさんの美しいウミウチワが広がり本当に素晴らしいダイブサイトのひとつです。
一部のウミウチワは、ポリプの内部に褐虫藻類を共生させているものもあり、光合成をして栄養を得ています。通常、紫や赤、ピンク、オレンジ、濃い黄色などの色鮮やかなポリプを持つウミウチワには褐虫藻が共生しているため、カラフルな発色をしているのです。
写真提供:ワカトビゲストWarren Baverstock
5. 褐虫藻類を共生させていないと栄養源を得ることができない種のウミウチワは、水中のプランクトンなどに依存しているため他のサンゴよりもアクティブです。(そうなのです!ウミウチワは触手を使い他の動物を食べているのです!) ほとんどのハードコーラルは夜になると捕食し始めますが、ウミウチワは浮遊物が多くなる流れが強い時にとても活発に活動するのです。
写真提供:ワカトビゲストWayne MacWilliams
6. ウミウチワのサイズや形状、外見は生息するローケーションにとても左右されます。
柔軟な扇形のタイプは潮通しの良い岩壁の浅瀬でよく見られ、背が高くて薄く、そして硬い枝を持つタイプはより深く、割と穏やかな海域を好む傾向にあります。
写真提供:ワカトビゲストRodger Klein
7. 森に棲む木のように、ウミウチワもとてもゆっくり成長していくので、良いサイズになるまでに何百年もかかります。そして、大きな木のように、大きなウミウチワにはウミシダやカイメン、小さな魚やエビなど様々な動物の住み家にもなっています。
よ〜く見てみると、ピンク系でかわいいミナミゴンベなどがカイメンの上から私達ダイバーを覗いていたりします。どっちが見られているのか分からなくってしまいますね!
写真提供:ワカトビゲストWalt Stearns
8. ゴンベの仲間など、様々な魚をウミウチワの周辺で見つけることができます。その中でも、長い口に編み目模様が素敵なクダゴンベは特に人気のある魚のひとつです。目立つ模様なので見つけやすそうですが、ウミウチワの枝の間に上手に隠れていたりするので、意外と見つけるのが難しいのです。
写真提供:ワカトビゲストMark Snyder
9. クダゴンベは、ウミウチワの枝で周囲を観察しながら休むのが好きなようです。木の枝から辺りを窺う鷹のように、小さな魚や甲殻類、無脊椎動物を見つけるとダーツのように獲物をめがけて泳いでいきます!残念なことに、赤い編み目模様が素敵なクダゴンベの大好物は、ピグミーシーホースということはご存知でしたか?特に、ダイバーのカメラやビデオのストロボで光を浴びたピグミーシーホースは、見えやすいのか格好の餌食になってしまうのです。
写真提供:ワカトビゲストFrank Owens
10. ピグミーシーホースはヨウジウオ科に属するメンバーの一種で、全部で7種あるうちの4種がワカトビのエリアで見られるのです!! 4種類のうち、バーギバンティピグミーシーホースとデニースピグミーシーホースの2種類は一生をウミウチワで過ごします。写真だとはっきり分かりますが、肉眼ではウミウチワの一部のようにしか見えません!素晴らしいカムフラージュ術ですよね?
ワカトビのダイブガイドは鋭い目を持ち、彼らが好む生息地を知っているので、頭からつま先まで1cmにも満たないピグミーシーホースを見つけてくれるはずです!
写真提供:ワカトビゲストRichard Smith(デニースピグミーシーホース)
11. ピグミーシーホースが好む環境を知っていたとしても、ウミウチワの中で見事にカムフラージュしたこの可愛くて小さな生物を探すのは、簡単なことではありません。
ピグミーシーホースが危険を感じると、私達ダイバーに背を向けるように内側を向いてしまうため、そうなってしまうと小さなポリプと区別するのにとても難しくなってしまいます。ですので、この小さな有名人を上手に撮影するには、辛抱強くゆっくりと慎重に動く必要があります!
この写真の中にはバーギバンティピグミーシーホースが3匹いるのですが、全員見つけられましたか?
写真提供:ワカトビゲストMaurine Shimlock
12. ピグミーシーホースを探していると、もしかしたらヨウジウオ科の親戚のようなカミソリウオ科に属するニシキフウライウオを見つける場合もあるかもしれません。カミソリウオ科の中でも、とてもカラフルで華やかなこの魚は、インド・太平洋で見られるエキゾチックな生物のひとつです。
ギザギザでスパイク状の体はウミシダの腕のようにも見え、同じ色のウミシダやヤギ、ウミトサカの近くでひっそりと浮いていることがほとんどです。流れにのってゆらゆらと揺れる姿は、私達ダイバーを魅了してくれます。
写真提供:ワカトビゲストWalt Stearns
13. 潮通しのいいサンゴ礁には、大きくて様々な種類のウミウチワが生息しています。
ウミウチワがピグミーシーホースの宿主であるように、ウミウチワにくっ付いているウミシダもいくつかの生物の宿主です。
写真提供:ワカトビゲストWalt Stearns
14. ウミシダに住むのは、コマチコシオリエビだけではありません!
ウミシダカクレエビやウバウオもウミシダを宿主としていて、ひとつのウミシダにこの3種類の生物が全て生息していることもあります。これらの生物の体色は、宿主の色とパターンに合わせているのも魅力的な特徴です。
写真提供:ワカトビゲストWalt Stearns
15. ハダカハオコゼがウミウチワの枝で休んでいる時もあります。葉っぱのように体を左右に揺らせながら木の葉に擬態し、小さい魚や甲殻類を狙います。個体により藻類の点々が付いていたりで模様が異なり、カラーバリエーションも豊富です。
写真提供:ワカトビゲストDoug Richardson
16. たまに、ウミシダの幼生時と勘違いされるクモヒトデもウミウチワに絡み付き日中を過ごします。暗くなるとウミウチワを離れ、エサを探しに動き回ります。夜行性であるクモヒトデは、また明るくなると元の場所に戻るそうです!
写真提供:ワカトビゲストSteve Miller
17. 葡萄の実のようにも見える樽状の美しいホヤは、鮮やかな色のものもあれば半透明の姿をしているものなど様々です。カイメンのようにも見えるかもしれませんが、実はホヤは脊柱(せきさく)を持つ原索動物とされ、全ての魚類、爬虫類、鳥類、哺乳類の胚で見られるのと同じ柔軟で棒状の脊索を持っているのです。(脊索:原索動物と脊椎動物の幼生期に見られる柔軟な棒状体で、成長する過程で退化していく器官。)
世界の海では、2,000種類以上のホヤの生息が確認されています。バラエティー豊かで‘海の鈴’のようなホヤに注目です!
写真提供:ワカトビゲストRob Darmanin
18. 分類される魚類の中で一番大きなグループを持つハゼ科の魚は、世界に2,000種以上いるとされていて、生息地も砂地でテッポウエビと共生する種やムチカラマツを好む種など様々です。ウミウチワに生息するハゼは、 お腹をすかせた大きな魚に見つからないよう体色をウミウチワとマッチさせているユニークなハゼの一種です。
写真提供:ワカトビゲストMark Snyder
19. 大きなウミウチワは、幼生期を安全に過ごすのに役立つ場所でもあります。米粒ほどの大きさのイカやコブシメの赤ちゃんは、ウミウチワの影に隠れないとすぐに誰かの餌食となってしまうので、森のようなウミウチワに身を潜め成長していきます。
写真提供:ワカトビゲストWayne MacWilliams
20. だから、今度ダイビングに出かけた時は一歩下がり美しいサンゴ礁の森を見てから、それぞれのウミウチワをじっくり観察してみてください。そうすると、新しい発見があるかもしれませんよ!
写真提供:ワカトビゲストWarren Baverstock